新規事業や設備投資など、自己資金のみの準備では難しい場合があります。事業を展開していくうえで、資金をどこから調達するかは重要な意思決定であり、長期的に影響を及ぼす非常に影響の大きい決断になります。
この記事では、自己資金以外の資金調達の方法のひとつである「エクイティ」=「株式を第3者に与えて資金調達を行うこと」を中心に解説します。
※ただし我々はあくまで税務の専門家であり、会社法の専門家ではないため、正しい情報を保証するものではありません。
正確で詳しい情報をお知りになりたい方はお近くの取引を行っている銀行にご相談ください。
エクイティ調達には様々な調達方法がありますが、今回は「特定の誰かに協力してもらうために自社の株を渡し、資金を調達する場合」の第三者割当増資に絞って解説します。
特定の第三者に新株を割り当てて、資金を調達する方法です。第三者は主に取引先や業務提携先などの縁故者が対象のため、「縁故割当増資(縁故募集)」ともいいます。相手との連携強化目的で利用することが多く、第三者に有利な割り当ての場合は株主総会での特別決議が必要です。
第三社割当増資のメリット・デメリットを解説する前に軽く銀行からの資金調達などとどう違うのかを解説しましょう。
銀行や自治体からの借金は一般的にデット調達と言われています。
それぞれの違いは以下になります。
エクイティとデットの違い
エクイティ | デット | |
返済義務 | なし | あり |
資本の区分 | 自己資本 | 他人資本 |
貸借対照表の扱い | 資本 | 負債 |
資金調達先の リスクとリターン | ハイリスク ハイリターン | ローリスク ローリターン |
株主の権限 | 経営権に影響あり | 経営権に影響なし |
返済義務
エクイティファイナンスは基本的に返済義務がなく、利息もありません。ただし、利益が出た場合は株主に配当金として分配する必要があります。※ただし株主同士で配当金を出さないことで合意されていれば配当金を出す必要はありません。
デットファイナンスは、融資元に対して返済義務のある借り入れです。ほとんどの場合、借り入れ元本の他に利息を支払う必要があります。資金調達後は毎月返済しなければならず、借り入れ額が多くなると金銭的な負担も大きくなります。
貸借対照表の扱い
エクイティファイナンスは貸借対照表の「資本」に分類され、会社の純資産に対する自己資本比率の増加につながるのが特徴です。返済義務のない資本金の割合が大きいほど、投資家や金融機関などから財務的に安定していると評価されます。
デットファイナンスは貸借対照表の「負債」に分類されます。負債の額が増えると自己資本比率が下がって印象が悪くなるため、自己資本と借り入れのバランスが重要です。
資金の出し手のメリットとデメリット
エクイティファイナンスの資金調達先(株主など)のメリットは、配当金と株の売却益で、投資した会社の業績が良ければリターンが増えることです。デメリットは、事業が失敗した場合に、資金が優先的に返済に充てられるので、配当がなくなる可能性が高いということです。
デットファイナンスによる資金調達先(金融機関など)のデメリットは、元本の返済と利息の支払いが行われないことです。ただし、元本の回収は株主に支払われる配当金よりも優先されるため、比較的リスクは低いです。リターンは借り入れに対する利息のみで、会社がどれだけ利益を出しても決められた分しか受け取れません。
資金調達を受ける側のメリットとデメリット★今回のメインタイトル
株式を渡して資金調達を受ける側のメリット | 株式を渡して資金調達を受ける側のデメリット |
返済義務がない | 株式の価値が落ち、将来売却する際に利益が減少する |
赤字でも調達できる | 経営権への干渉が行われる可能性がある |
資金提供者から経営スキルやノウハウを学べる | 資金調達に時間と費用がかかる |
財務体質を強固にする | 投資家へ配当金の支払いが必要になる場合がある |
エクイティファイナンスによる資金調達の手順
価格を決める
一般的に増資の価格を決めるのは、ブックビルディング(需要積み上げ)と呼ばれる方法です。ブックビルディングでは、まず勧誘で引受証券会社が仮の発行条件を提示し投資家に需要調査をします。そして調査結果に基づき、公募価格を決定します。
株主への説明
非公開会社の場合、株主総会の特別決議で定められる主な項目は以下のとおりです。
募集株式の数
募集株式の発行価格と算定方法
払い込み期間・期日
申し込み期間・期日
増加する資本金および資本準備金に関する事項
有価証券届出書の作成・提出
有価証券届出書は、株式や債券の発行時に必要な書類です。株式や債券を発行し募集する際は、財務局への提出が法律で定められています。
新株発行事項を通知する
新株を発行する会社は募集株式の引受けの申し込みをしようとする者に対し、会社の商号や募集事項などを通知しなければなりません。
株式申込証(新株引受権証書)による新株引き受け
新株を引き受ける人(株式引受人)は、株式申込証による申し込みをします。会社は割り当てる株式引受人を確定し、株式引受人が期日までに払い込みをすると新株発行の効力が生じます。
必要書類を作成して登記申請する
増資時に必要な登記申請は、会社の所在地を管轄する法務局で行います。登記申請に必要な書類を以下にまとめました。
登記申請書
株主総会議事録 ※取締役会の場合は取締役会議事録も必要
株主リスト
株式申込証(新株引受権証書)
払い込みを証明する書類(通帳のコピー)
資本金の計上に関する証明書
まとめ
資金調達にはエクイティ(株式)やデット(借り入れ)などがあり、それぞれ異なる特徴があります。専門家の意見などを参考に違いを理解して、会社の経営状況にあわせた方法を選ぶのが大切です。
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